SEIKA AWARD 2024

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授業作品部門[イラスト]

建物という世界

巽 涼平(三重県立飯野高等学校)

家を出てすぐ信号を待つ。今日はいつもより赤信号が長く感じる。ようやく信号が青に変わった。細い旧街道をいそいそと早足で抜け、坂を下る。今の時刻は7時25分。ここまで来ればもう安心だ。街並みを見る余裕もある。駅に着き、電車に乗る。数駅で電車を降りバスに乗り換える。大きな揺れとエンジン音にももう慣れた。揺られること30分、学校へ到着だ。これが私の通学路。通学路の脇に建つ何の変哲もない、ごく普通の建物。でも、暗い夜道、灯台のように家の窓から漏れる灯りにほっとする。ずっとそこにあった建物が取り壊されると、なぜだか悲しい。ありふれた日常と見慣れた建物はいつの間にか私の心の支えとなっていた。その建物は私の『世界』を確かに形作っている。そんな世界に、色鉛筆の風合いは似合う…と思う。